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執筆者の写真ひろれのん

『熱源』

更新日:2020年3月25日

 


 第162回 直木賞を受賞した作品なので、多くの人が知っているでしょう。

 さっそく読んでみましたが、かなり面白かったです、物語の最後の方はどうしても目頭が熱くなりながら本を読みすすめました。


 主人公は樺太アイヌ。樺太南部には、古くからアイヌの人びとが生活していましたが、1875年の千島・樺太交換条約によってロシアに編入されます。これによって北海道に移住に余儀なくされたアイヌ人が、日本による同化政策、コレラや痘瘡といった疫病の脅威にさらされて、再びサハリンに戻るところから物語が始まります(ここが一番面白い)。

 歴史に明るい人は、その後の樺太(サハリン)の動向について、だいたい知っていると思います。1905年に日露戦争に勝利した日本は、北緯50度以南の樺太を領有することになりました。しかし、1945年8月には日ソ中立条約を破棄したソ連がサハリン南部に侵攻し、サハリン全土を再び手中に収めます。そうした歴史の動きに翻弄され「アイヌ民族」が消えかかるなか、アイヌを取り巻く人びとの群像劇で展開されます。


 物語のテーマは、文明と未開の対立です。当時は帝国主義の時代で、弱肉強食の時代でした。「樺太(サハリン)」は、その時々に支配しようとする国によって呼ぶ方が異なる、まさに未開の地域です。アイヌは文明によって飲み込まれ、滅びの道を歩みつつあると自覚しながらも、どこかでアイヌであることにこだわり続ける人びとの姿が描かれます。

 たとえば、対雁(ツイシカリ)のボスであったチコビローは、とある用で東京に行きます。主人公の一人ヤヨマネクフが東京に行ってきたチコビローに東京ってどんなところと聞くと、「幻想だ」と答えます。さらに、「文明ってのに和人(シーサン、日本人)は追い立てられている。その和人に樺太アイヌは追い立てられ、北海道のアイヌはなお苦労している」「文明ってなんだい」と聞くと、チコビローは「たぶんだが」「馬鹿で弱い奴は死んじまうという、思い込みだろうな」と答えます。

 もう一人の主人公はポーランド人のブロニスワフ・ピウスツキ。ロシア皇帝暗殺計画に加わったという容疑で死刑判決が下され、その後減刑されてサハリンに流刑されます。生きる意欲を失っていた彼は、サハリンで出会ったギリヤーク(ニヴフ民族)やアイヌに出会って生きる熱を与えられることになる。これが小説のタイトルの由来です。ピウスツキは、人種や民族の優劣を語る欧米人や日本人に対して、それを否認します。彼はギリヤークやアイヌの研究や文化を保全に努めながら、祖国ポーランドの独立運動にも加担していきます。


小説は樺太アイヌのヤママネクフとポーランド人民俗学者のピウスツキを中心に、アレクサンドル・イリイチ・ウリャーノフ(レーニンの兄)、ユゼフ・ピウスツキ(ポーランドの独立運動家)、大隈重信、金田一京助、白瀬矗(しらせのぶ、日本人として初めて南極点到達を目指した)などの有名人も出てきて物語を盛り上げます。ぜひご一読を。

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